ゲルハルト・リヒター展、個人的な感想を語る

 先日、竹橋の東京国立近代美術館で “ゲルハルト・リヒター展” を見てまいりました。

このブログで美術展の記事を書くのは一年振りです。いろいろあって出掛けることが難しくなっており、久しぶりの美術鑑賞となりました。やはり、美術館はいいですね!止まっていたわたしの頭脳と心が再び動き始めたのを感じています。

ゲルハルト・リヒターの似顔絵イラスト

生誕90年、なのだそうです

 ゲルハルト・リヒター氏(以下敬称略)はドイツの芸術家です。2022年現在で90歳という高齢でありながら制作を続けているのです。

これはスゴいことです。藤城清治氏の方がもっとスゴいけれど、(残念ながら昨年お亡くなりになってしまいましたが)すぎやまこういち氏にしても、アンパンマンの作者やなせたかし氏にしても、自らの思考をアウトプットする人は老いによる弱り方が緩やかなような気がします。

アウトプットするということはインプットも惜しみなく行っているはずですので、思考の流れを留めることがないのかもしれません。わたしには86歳の母がおりますが、彼女を見ているとそう思うのです。

楽しみにしていたのです

 今回のゲルハルト・リヒター展、とても楽しみにしていました。そして、ぜったいに見ようと心に誓っておりました。

というのも2005年、千葉県佐倉市の川村記念美術館にて “ゲルハルト・リヒター展” が開催されたのですが、なんと愚かなことに わたくしは展覧会を見そびれてしまったからなのです。

ありがちですが、鑑賞日を先送りし続けたことで結局見に行けずに開催終了を迎えた、というやつです。ですので今回はなるべく早めに行動してみた次第なのです。

平日の会場は、、、ミュージアムショップは、、、

 新型コロナウイルスによるパンデミック以来、美術館ではチケットの事前予約が浸透していますね。これによって入場者数が制限されているようなので、かつてのような「人が多過ぎて満足に作品鑑賞できない!!!」という悩みは消えました。いいことです。

リヒター展も程よく鑑賞者がいて展示の盛り上がりを感じつつ、“見ること” に集中もでき、わたしは満足でした。しかし、わたしが見に行ったのは平日。しかも週の谷間の水曜日ですので 土日は混雑するのかもしれません。

 ちなみに、特設ミュージアムショップもレジ待ちの列も発生せず、平和でした。ショップに並んでいる商品の中で気になるものがありました。それはリヒター社の水平器とメジャーで、見つけた時にはウケましたが、あれは “リヒター” という名前が同じということだけで置いているのか、特別仕様なのか、リヒター本人が愛用しているのか…。確かに、リヒターは制作を始める前に(キャンバスを壁に設置する際)きっちりと水平垂直を確認していそうです。

リヒター展で感じたこと

 今回の展示は、一部を除いたほとんどの作品の写真撮影が可能で、みなさん結構バシャバシャ撮ってました。みんなが撮っていると、何故だか「撮らねば!」と思ってしまいます。

会場へ入ると “8枚のガラス” が目に飛び込みましたので、わたしも2、3枚撮りました。しかしスマホ越しではなく、ちゃんと眼球に光を取り込んで視神経から脳へ信号を送ることに専念しようと、そっとiPhone6(古い…)をポケットへしまいました。

 小さめの “アブストラクト・ペインティング” に目を奪われ、“8枚のガラス” の周りを何回もぐるぐる回り、“4900の色彩” の横に展示された “鏡” をずっと見つめ、“グレイの鏡” を見ながら “ビルケナウ” を感じ、“アンテリオ・ガラス” の中の自分と “ストリップ” を一体化させつつ リヒターの世界に入り込んでいきました。

ガラス絵的な “アラジン” や、終始ピンボケの “フィルム” をゆっくりと気分良く鑑賞した後、出口に近い場所に展示されていた、“オイル・オン・フォト” と “ドローイング” に深く惹かれました。

特にグラファイトで制作したドローイングは2021年制作ということで、とても最近の作品。グラファイトの粉を擦ったり消したり、繊細で神経質なシャープな線を引いたり、制作しているリヒターを強く感じることができます。アブストラクト・ペインティングの方がインパクトがありますが、わたしは軽い素材を用いたドローイングに共鳴いたしました。

しかしそれと同時に何か恐怖に近いものを感じたのです。

危うくデリケートな世界

 それらの作品からは、切断、欠落、消失、日常からある日突然あるべきものが消えるような、あるべき記憶が消えるような、あるべき光を失うような、そんな恐怖を感じました。

あたりまえに存在するモノやコトはとても危うくて、それは永遠ではない。リヒターの作品も危うくデリケートな存在であり、今とは違う何か他の働きによってあっけなく消失してしまうのだと。

わたしたちは小さな一点でバランスをとっているやじろべえみたいなものなのだと。そんなことを考えてしまったのです。

 わたしはもう一度、このゲルハルト・リヒター展を見に行こうと思っています。いやいや、必ず見に行きます。その時はどんなことを感じるのか、非常に楽しみなのです。

ゲルハルト・リヒター展の案内板
東京国立近代美術館 “ゲルハルト・リヒター展”

ゲルハルト・リヒター展は、2022年10月2日(日)まで開催しています。詳細は公式HPにてご確認ください。

“ゲルハルト・リヒター展” 東京国立近代美術館 https://richter.exhibit.jp