作品 no.5 “キミへの手紙を綴る夜”

 OKUAKI STUDIO art blog で5点目の作品紹介となります。タイトルは『キミへの手紙を綴る夜』でございます。

キミへの手紙を綴る夜

 わたしの制作テーマは “時間” です。この『キミへの手紙を綴る夜』も例に漏れず、“時間” をテーマとしております。

『キミへの手紙を綴る夜』

 相手のことを考えながら、言葉を選び、表現に工夫を加え、魅力的な文章を仕上げようと 時間を忘れて手紙を書き続けてしまう。誰しも一度はこのような時を過ごしたことがあるのではないでしょうか。すべての世代の人に共感してもらえると思っていますが、どうでしょう?

悶悶と手紙を書いているうちに、自分が感じている時間と実際の時間にズレが生じ、まだ手紙を読んでいない相手の反応を勝手に想像、時間と空間を超えて頭脳が混乱し始める。

満月のようで三日月のような、塔のようで樹木のような、動いているようで止まっているような、不思議な時空間を作り出してしまう。

『キミへの手紙を綴る夜』は、そんな様子を表しています。

不透明で乾いた発色の“練り込みテンペラ絵具”

『キミへの手紙を綴る夜』部分

 この作品は “練り込みテンペラ” というヘンテコネームのテンペラメディウムを使った絵具を使用しています。このメディウムで作った絵具は、乾いた軽やかな発色を望め、平塗りや厚塗りができるという特徴があります。

練り込みテンペラメディウムは、田口安男氏の著書 “黄金背景テンペラ画の技法”(美術出版社)で紹介されている、卵黄・リンシードオイル・膠水・小麦粉糊・氷酢酸 を合わせて作るユニークなメディウムです。

わたしが大学に在学していた時、田口教授から教わったのは “OGテンペラ” というものでした。OGとはOilとGlueの頭文字で、スタンドリンシードオイルと膠水をアンモニア水の滴下でエマルジョン化させるメディウムでした。

OGテンペラは練り込みテンペラに見られる問題点を改善したメディウムなのですが、わたしは “卵黄” を使ったエマルジョンの方が好きなので練り込みテンペラの方を選択しています。小麦粉糊もわたしには必要な材料で、小麦粉糊を省くと色の見え方や表面の質感が若干違ってしまいます。小麦粉糊と卵黄は “カビ” 発生の要因になりうるのかもしれませんが、適量のメディウム使用、防カビ剤を加える、ニスを塗布する、良い環境下での保管を守ることで、今のところ “カビ問題” は わたしを悩ませてはおりません。

色鉛筆の併用

『キミへの手紙を綴る夜』部分

 練り込みテンペラは不透明で発色の良い絵具ですが、透明層を作り出すことには適していません。でも深みを持たせるには “色の重なり” を利用したいのです。

練り込みテンペラ絵具を水で希釈して透明層を作ればいいのかもしれませんが、きれいな透明層には “透明なメディウム” が必要になります。練り込みテンペラに限らず ほとんどのテンペラメディウムはエマルジョン(乳化)ですので、残念ですが不透明なのです。ですから、薄く重ねた色の層で 期待していた効果を望む事はできない、と言うことになってしまいます。

そこでわたしは透明層として “色鉛筆” を使っております。正確には透明層ではないのかもしれませんが、下の色を隠蔽せずに色層を加えることができます。しかもザラザラさせたり、擦り込んで滑らかにしたり、自由度が高いのです。

 さて、以上で『キミへの手紙を綴る夜』の紹介を終わりにしようと思います。コンスタントにブログ更新ができていないのが現実なのですが、できるだけムラのない更新を目指しております。

作品データ

タイトル:キミへの手紙を綴る夜

制作年:2022

素材:ウォーターフォード水彩紙・石膏地・練り込みテンペラ・色鉛筆・金箔

サイズ:560×200mm