水彩筆のお話し

2020-11-28

 水彩画だけでなく絵具を使って制作する場合、筆を使います。ほとんどの道具と同じようにやはり筆にも使い易い、使い難いがあり、こちらもやはり個人個人でその感じ方は違うようです。Aさんが絶賛したからと言ってその他の人たちもみんなが絶賛する訳では無いのです。

そこのところを前提に、今回はわたしが使っている水彩筆をご紹介したいと思います。

水彩にもテンペラにも油彩にも

種類が違う6本の水彩筆のイラスト

 わたしが最もよく使う筆は、ラファエル社(フランス)のコリンスキー毛を使った筆です。水彩画の筆は基本的に軟毛で、主に赤テンやリスの毛が使用されています。ラファエルのカタログには以下の解説があります。

赤っぽい金色かかった赤テンの毛は、絵具含みに優れています。他の毛質とは比類のないほど弾力性としなやかさを備えています。精緻な水彩画には赤テンの尾毛が理想的なのです。極寒地に生息するロシア産の赤テンは、毛量が豊富で密度と弾力性に富んでいます。ラファエルでは、赤テンの極上品を通常コリンスキーと呼んでおり、金以上の取引価格を持つほど高価な毛質です。

ラファエル社カタログ(ラファエル社輸入代理店:丸善美術商事)より引用

ラファエル社の筆は高価なのですが、使いやすい、長持ちする、デザインがいい、と愛用する条件が揃っているのです。中でも『シリーズ 8404』と『シリーズ 8402』はストックしているくらいお気に入りです。わたしはこの筆を水彩画だけでなくテンペラ画にも使っております。油彩での使用も問題なく、細密でリアルな描写をする油彩作家さんたちが、シリーズ8404を使っているのをよく見かけたりします。

テンペラや油彩で使用した場合は、しっかりと丁寧に洗ってお手入れを怠らないことが大事です。お手入れに関しては水彩絵具使用後でも変わりません。

洗った筆の乾かし方など、道具や絵具の片付けに関しては以前の記事をどうぞ。

水彩にはこれが最高です

ラファエル社シリーズ803
穂先が乾いたラファエル社 シリーズ803(20年以上使用)
穂先に水を含んだラファエル社シリーズ803
穂先に水を含ませたラファエル社 シリーズ803

 ラファエルのシリーズ8404と8402以外では、『シリーズ803』のブルーリス毛の水彩筆が使い易いです。レトロなデザインがとてもカワイイ筆ですが、値段は全然カワイくありません。

一般的に使いやすいサイズで一本4,000円から5,000円くらいするので、気軽にお買い物カゴに入れることはできない値段と言えます。でもスゴく使い易いんです。そして803は酷い使い方をしなければ一生使えるんではないでしょうか。

 わたしの使い方ですが、8404や8402はテンペラでの使用が中心で、サイズも0号前後の穂が短く細いものになります。ですから穂の消耗は避けられません。

しかし803は水彩絵具か膠水溶きの顔料、といった油分を含まない絵具のみでの使用ということもあり、穂先は減ってきていると思いますが、穂全体は痛んできている気配はありません。穂の形状も美しさを保っています。「あんまり使ってないからでは?」という意見も予想されますが、毎日ではなくても、かなりの頻度で使用しているのです。しかも最初に購入した803の4号は20年以上前から使い続けています

100円の筆がある中で一本数千円もする筆を購入するのは勇気がいりますが、803ならきっと大切に使い続けていける一本となるはずです。

一本だけ筆を買いたい方に

 水彩画を始めたいけど、筆はどんなのを買ったら良いのでしょう?という方にオススメの筆を何本か紹介したいと思います。まず一番のオススメは先に紹介しているラファエルのシリーズ803ですが、ここではそれ以外の筆の紹介をします。

 表現の仕方によりますが、水彩筆は水で濯ぎながら使えば一本だけでも問題なく描き進んでいけます。この場合はある程度の太さがあって絵具の含みが良い上に、穂先が効く筆が良いでしょう。毛質は柔らかで、まとまりがよく、弾力のあるものが理想的です。

日本画用の筆の中には、この理想にぴったりのものがあります。削用という名前の筆で、わたしはこの筆をテンペラに使ってます。価格も手頃なものからそうじゃないものまで、自分のお財布事情にあったものを選べます。ちなみにわたしが使っているのは、谷中にある日本画材料店 金開堂さんの筆です。削用には3、4種類の動物の毛が使われているらしく、それぞれの毛質やその特性を生かし、絶妙な割合と束ね方で仕立てられた筆です。

 この削用の特徴を元に仕立てた素敵な筆があります。ホルベイン社のブラックリセーブルシリーズのSQ

という筆です。木目を生かした透明なマリンブルーの軸が美しいSQは、ラファエルのシリーズ803のようなレトロデザインでいつまでも愛せるルックスをしています。そして実際に絵具の含みは最高で穂先もスッと揃います。

金開堂の削用とホルベインのSQ
穂先が乾いた金開堂の削用とホルベインのSQ(削用は使い込んであります)
穂先に水を含んだ水彩筆
穂先に水を含ませた金開堂の削用と、ホルベインのSQ

SQは1号、3号、6号と三つのサイズのみで、わたしは一番小さい1号を所有しております。1号サイズの価格は税込で2,585円、こちらも決して安くはありません。ラファエルの803だと2号くらいのサイズ感でしょうか。ちなみに803の2号の価格は税込4,510円になります。

ホルベインのブラックリセーブルの説明書きには「良質のリス毛に特殊処理されたリセーブル毛の特徴を加え、絵具含みが良くソフトな描き味を実現。繊細さが求められる水彩画に最適の筆です」とある通り、天然毛とリセーブル毛の混合になると思われます。ラファエルのシリーズ803との比較ですが、どちらも使いごごちは最高です。しかしSQを803のように20年以上使い続けるとどうなるのかは現在のわたしには分かりません。

長く使い続けましょう

 安くても良い筆はあると思いますが、基本的に筆とは生き物の天然毛を使用して、職人さんが一本一本作っています。ですから高額なのは当たり前で、大切に長く使い続けることが前提の道具なのだと思います。

以上、水彩筆のお話しでした。

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Posted by okuaki studio