卵黄テンペラ

 テンペラと呼ばれるメディウムの中で、一番シンプルで基本中の基本なのは卵黄テンペラ(Egg Tempera)です。今回はこの卵黄テンペラのメディウム作りを紹介します。

準備

卵黄テンペラの材料
卵黄テンペラの材料

 メディウム作りはとても簡単ですし、特別な材料も必要ありません。卵黄だけを容器に取り分けるだけなんです。簡単ではありますが、誰でもすぐに作れるように もう少し詳しく解説していきます。

準備するもは、

鶏卵(卵黄のみ使用します)
小さめの容器(蓋付きのガラス容器がオススメ)
尖ったもの(爪楊枝・針・カッターなど)
(精製水)または食酢
防腐剤・防黴剤

防腐剤と防黴剤は無くても問題ありません。

作り方

YouTubeで動画の公開もしています。合わせてご覧ください。

まず、卵を割って、卵黄だけを手のひらに乗せます

両手のひらの上を行ったり来たり転がしながら、表面の滑りを抑えていきます。または、四つ折りにしたティッシュの上に卵黄を乗せて、優しく転がしながら滑りを抑えてください

滑りが無くなったら、卵黄の上を摘んで、そーっと持ち上げます。

ガラス容器の真上に卵黄を移動させ、下部を尖ったものでツンとさして薄皮を破ります

すると卵黄の中身だけが容器に入り、薄皮は手元に残ります

卵黄テンペラの作り方

 この後は、テンペラメディウムとして使いやすくすること、保存が効くようにすることの作業を加えていきます。

まず、卵黄のままだとドロっとし過ぎていて使いにくいので、水を加え、よく混ぜ合わせます。水道水でも構いませんが、私は精製水を使っています

量はティースプーンで二杯くらい。鶏卵のサイズで減らしたり増やしたり加減をします。「ドロっと」が「トロっと」に変化するくらです。「サラっと」してしまうと薄過ぎです。

技法書などを見ると、ここで加えるのは食酢だったりします。もちろん食酢でOKです。食酢の場合、使いやすくするためと、防腐のためと、両方を兼ねています。

卵黄テンペラは、作った日に使って、次の日はまた新しいのを作るのが基本です。しかしそれではもったいないですよね。ですので防腐剤を2、3滴加えて冷蔵庫で保管します。

卵黄テンペラの作り方
卵黄テンペラの作り方

防腐剤

 絵画専用の防腐剤は、ホルベイン社製、クサカベ社製があります。クサカベ社製には防黴剤が加えられたものもありますが、私はまだ使ったことがありません。

 防腐剤を入れた卵黄テンペラは、冷蔵庫保存で1ヶ月以上経っても腐敗はしません。使おうと思えば使えますが固着力が落ちていますので、品質の良い作品制作のため 新しく作り直すのが画家としての正しい姿勢だと言えます。

現代は清潔です

 現代は清潔な時代ですので、防腐剤を入れなくても、その日のうちに痛むことはありません。

テンペラを盛んに使っていた時代では、ハエなどの昆虫が卵黄メディムに集ったりなどで、食酢を加えておかなければ様々な条件が重なり傷みが早まったのだと思います。

テンペラへの誤解

 よく「卵を使った絵は腐らないんですか?」「カビが生えるのではないですか?」という質問を受けます。

 まず、テンペラ画は腐りません。腐る前に乾きますし、そもそも腐っている絵を見たことないです。もし腐るとしたら、それはテンペラが原因ではないでしょう。

卵黄一つを使い切るのは意外にも大変なことなのです。つまりテンペラ画一枚に使用される卵黄の量はごく僅かです。

 次にカビですが、テンペラ画だからカビるのではなく、保管条件が悪くでカビるのです。

テンペラは乾きが早い絵具ではありますが、本当の意味で硬化し固着するのには一年ほど掛かります

ですので、一年間は風通しの良い場所で保管、または飾っておくべきです。しまい込んでしまうとカビが発生する可能性が高まります。しかしこれはテンペラに限ったことではない筈です。

身近に感じてください

 多くの人にとって未知の絵具であるテンペラですが、そのメディウムは馴染みのある卵です。どこのお宅でも冷蔵庫にはだいたい卵が入っていますよね。卵が我々にとって身近な食材であるように、テンペラも身近に感じていただければ幸いです。