グラッフィートで幻想的な表現を!

2021-01-03

 子供の頃のクレヨンお絵描きで、竹串やニードルを使って上の色を引っ掻くあの方法、覚えていますか?何色も色を塗った上に黒などの色をビッチリ塗り重ね、スーッと掻き落とすと鮮やかな虹色の線が出てきてワクワクしたものです。

この技法の名称、学校教材ではスクラッチと書かれてますが、わたしは『グラッフィート』とか『掻き落とし』と呼んでます。子供の技法のような気がしますが、そんなことはなく、フレスコ画、黄金背景テンペラ 、額縁、陶芸などの歴とした装飾技法としてプロフェッショナルな場面で広く使われています

グラッフィートの図解

パウル・クレー

 この技法をArtの領域に持ち込んだのが20世紀のアーティスト、パウル・クレーです。パウル・クレーはわたしの好きな作家No.1なのです。

パウル・クレーの作品は一見すると子供が描いたような可愛らしい絵なのですが、実は多様なメッセージ性と問いかけを取り込んだ意味のある作品なんです。カオスな脳内イメージに形や色や法則を与え、作品として成立させていくための造形的思考が、わたしたちアーティストに必要であることを教えてくれます。

彼は、表現に合わせた材料や技法、さらには道具まで作り、ユニークな作品を残しています。クレーの思考回路を具現化したような作品群は幻想的で引き込まれます。

 パウル・クレーの作品は日本でも見ることができます。わたしの住んでいる東京都では国立近代美術館とアーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)が充実したコレクション数を所蔵しています。

 代表的な著書である『造形思考 /上・下』は筑摩書房から文庫が出ています!文庫が出る前はハードカバーの上下巻で 高額(古本)でしたから、文庫版が出版された時は嬉しかったです。

グラッフィートでの制作

 わたしもテンペラでグラッフィートを使って制作することがあります。また最近では色鉛筆でも表現の中に取り入れています。グラッフィートは絵具層が薄いわりに重厚感を感じさせることができる方法だと思います。その理由として考えられる点は2つあると考えています。

・線の色に変化があり複雑に見える

・絵具と絵具の隙間が線となるので物質感をアピールできる

そして何よりもグラッフィートは幻想的な絵画空間を表現することが可能です。掻き落としによって上層に傷をつけると、そこから下層の色が覗くだけでなく上層へ押し上がったり混ざったりします。描写の行為は上下の絵具層を繋ぐ役割も兼ねていて、絵画ならではの平面的な幻想空間を作り出します。これはまさにクレーの造形思考的な描写法です!

とは言え、グラッフィートだけで完成まで持っていくのは浅はか過ぎるので、筆で絵具をプラスしたり、グレーズ(透層)したり、またグラッフィートしたりと、複雑にしていくことが必要ではあります。

 今回はグラッフィートについて さわりをお伝えしました。今後も、技法、道具、展開、などの内容に分けて解説していくつもりです。