簡単な製本方法

2022-02-24

 先月(2021年2月)開催しておりました『奥秋由美×花村 “にちじょう”』ですが、会期終了後にもやるべき仕事がありまして、最近やっと落ち着いてきたところです。その仕事のひとつが受注販売をしていたART BOOK “黒猫とスケッチブック” の製本作業だったのですが、今回はこのART BOOKの製本方法について紹介していこうと思います。

ART BOOK “黒猫とスケッチブック”

ART BOOKという表現手段

 OKUAKI STUDIOでは絵画制作だけでなく、そこから派生し広がって行く様々なartに取り組んでいます。そのうちのひとつがART BOOKの制作なのです。

“黒猫とスケッチブック” はその第一冊目、記念すべき本となります。もともとYouTubeに “絵物語” として公開していたもので、旅する画家の青年と小さな黒猫が出会い、一緒に旅を続けるお話です。旅の途中で彼らが体験したことを、いくつかのエピソードとしてシリーズ化できれば楽しいのではないか、と思っています。YouTubeには他にも “絵物語” をアップしておりますが、まずは “黒猫とスケッチブック” をご視聴していただけたら幸いです。

OKUAKI STUDIO art channel【ART & STORY // 黒猫とスケッチブック】

https://youtu.be/t2zzm0K-F5c

参考にしたキレイな本

 さて、“黒猫とスケッチブック” の製本に関しては参考にした書籍があります。それは美しい手製本で有名な美篶堂さんが手がけた “うさぎがきいたおと” という本なのです。みなさんご存知ですか?

わたしは本屋さんで見かけて、やわらかな色彩の絵柄と、無駄な装飾を省きスッキリとした外見、そしてその構造に心を奪われ即買いしてしまいました。絵とストーリもステキですが、わたしは見た目と作りに食いついておりましたので、「どうやって作ってるのかな?」と開いたり閉じたりしながら観察しまくりました。

糸などを使ってページを綴じていないので見開きやすく 歪みなく絵を見せられるところ、ハードカバーだけど厚紙がむき出しなところ、などなどあらゆる点でART BOOKの製本方法として魅力的だし優れているなと思い、OKUAKI STUDIOでもこの製本方法を取り入れたいと考え始めました。

はじめての手製本として

 この製本方法の正式名称は分からないのですが(分かり次第訂正を入れます)、二つ折りにした用紙の裏どうしを貼り合わせて ページを綴じていくのが特徴。「自分で本を作ってみたい。」と考えている方、この方法はとても簡単なので、はじめての手製本にピッタリだと思います。オススメです。

下の画像をご覧ください。この見開きページは、絵や文字がプリントされた用紙を二つ折りにしたものです。次の見開きも、その次の見開きも同じように二つ折りされた用紙で構成されています。

“黒猫とスケッチブック”見開きページ

製本しているところの動画もYouTubeで公開しております。ご視聴いただくと、この後の解説が分かりやすいかと思います。

OKUAKI STUDIO art channel【ART & WORKSHOP // 簡単な製本方法】

https://youtu.be/mSWMlrP4j58

本を構成する部品の準備

 さあ、解説を始めていきますね。絵本なのか画集なのか、どのようなデザインのART BOOKにするのかは皆さまが考えるとして、ここでは “本の形に仕立てていく” ことのみに徹底してまいります。

A5サイズの本を作ると想定します。この場合、使用する用紙はA4(半分に折るとA5になります)となります。これら用紙も含めた材料、道具は以下となります。

材料
 ・本文用紙(A4大)
 ・見返し用紙(A4大)
 ・表紙用ボール紙(A5大)
 ・寒冷紗(210×30mmくらい)
 ・澱粉のり(フエキのり、ヤマトのり、など)
 ・木工用ボンド(速乾ではない方)
 ・スティックのり(あると便利)
道具類
 ・定規
 ・カッター
 ・刷毛や筆
 ・クランプ類
 ・分厚くて重い本など
 ・ボール紙の余り/木端など

本の形に仕立てていくために必要な構成要素は下図のようになります。どうでしょう?イメージ掴めますでしょうか。

図にある 見返し2枚、タイトル、本文、奥付 は、A4用紙を二つ折りしたものになります。見返しは本文などと違う色の用紙を使うとステキになります。

二つ折りの内側が表、外側が裏(無地)になりますので、お間違いの無いように。

表紙と裏表紙はA5大で2mm厚のボール紙(グレー)を用意します。グレーのボール紙のままは「イヤだな」という場合は、相応しい紙を覆い貼りすると良いのですが、その解説はまた別の機会にお知らせいたします。

用紙を貼り合わせる

 使用する “のり“ は、澱粉のりと木工用ボンドを混ぜ合わせて準備します。割合はハッキリ決めていないのですが、澱粉のりの方が多く、ボンドは少なめにしています。

澱粉のりに少しずつ水を足してよく馴染ませ、トロ〜っとさせます。水っぽくならないように、サラサラではなくトロ〜っです。トロ〜っとしたら木工用ボンドを足して、よく混ぜ合わせて “のりボンド” の出来上がりです。

上図にあるように黄色の部分に “のりボンド“ を付けて貼り合わせていきます。紙の裏全面にのりを付けるのではなく、背側、小口側それぞれ5mm幅くらいに留めます。

貼り合わせ作業は、背側から始めます。二つ折りした用紙をピタッと揃え、ズレないように固定することが必要になります。

ページを貼り合わせる

YouTubeでは背側の貼り合わせ作業を “背に木工用ボンドを塗る” ことで置き換えています。どちらも同じように仕上がりますので、お好きな方を選んでください。

背側の貼り合わせが終わったら、小口側も同じように作業してください。注意点は “用紙の裏にのりを付ける” ことです。間違って表に付けてしまうと大変なことになるので、用紙の裏に鉛筆でうっすら印を付けておくと良いです。

背側と小口側の貼り合わせが終わったら、重い本などを乗せて圧をかけておきます。

ここでの注意点

・用紙をピッタリ揃える
・ズレないように固定する
・のり付けは5mm幅
・小口側は用紙の裏にのりを付ける
・圧をかけておく

寒冷紗を貼る

 ここまでの作業で既に“本”の姿になっていると思います。小口の揃いが悪くてどうしても気になるときは、必ず定規を当ててよく切れるカッターを使い整えてください。

 この解説ではA5サイズの本を作っているので、寒冷紗のサイズは210×30mmを準備します。寒冷紗のサイズは製本スタイルによっていろいろ変わってくるのですが、ここではこのサイズが良いです。

ハードカバー仕様ではなくても良い場合は、ページに使った用紙などで背表紙(210×30mm)と、表紙(A5)と、裏表紙を作って、同じようにのりを付けて貼り合わせば(背表紙は寒冷紗と同じように貼って下さい)、ソフトカバーのART BOOKが完成しちゃいます。

 それでは寒冷紗貼りの説明です。本の中で動かすことが多い部分に寒冷紗を貼るのは、補強を期待しているからだと思われます。この方法で製本した場合、ページを見開いた時に全開できてしまう構造上、木工用ボンドでガッチリ背固めしてしまうと、本を開く度に紙が傷つくと思うので、寒冷紗のような繊維を貼り付けてあげるのが良いのだと思います。参考にしている “うさぎがきいたおと” も寒冷紗が貼り付けてあります。

背に寒冷紗を貼る

寒冷紗とは「何ぞや?」という方、検索すると建築、美術、農業などなど、様々な分野で使われている素材であることが分かる思いますが、それらで使われているスッカスカの繊維だけの寒冷紗より、片面に和紙が貼り付けてある“製本用の寒冷紗”(?) が作業しやすくてオススメです。

製本用の寒冷紗であれば和紙が貼り付けてある方の面に “のりボンド” を全面に塗って、上図のようにピタッと貼ります。

製本用ではない寒冷紗の場合は、本の背に “のりボンド” または “木工用ボンド” を薄く塗りのばし、寒冷紗をしっかり貼り付けます。続いて本の表側、裏側へ貼り込んで完了です。YouTubeの動画では、表側、裏側へ貼り込みに “スティックのり” を使っています。スティックのりは大変便利で、ページの貼り合わせ時に “のりボンド” の代わりに使っても良いですよ。

ここでの注意点

寒冷紗は適したサイズにカットしておく

表紙の取り付け

表紙と裏表紙を貼る

 いよいよ表紙の取り付けです。表紙のサイズはA5大、210×148mm です。

表紙はページ用紙の貼り付けと同じように行うか、見返しの裏全面に “のりボンド” を塗りのばしてボール紙を取り付けるか、どちらか適した方を選ぶと良いです。

YouTubeの動画では、ページの貼り付けと同じように背側と小口側の接着で取り付けています。なぜ “全面のり付け” を選んでいないのかと言うと、“黒猫とスケッチブック” は家庭用のインクジェットプリンターで印刷していることから、たとえ裏面であれ 用紙全面にのりが塗り広げられることで “インクにじみ” が発生するかもしれない、という点が心配だったからです。

上記のような心配が無ければ、全面貼りの方が頑丈でキレイな仕上がりを期待できると思います。

ここでの注意点

綴じたページと表紙がズレてしまわないように!

カバーを付ける

 表紙はボール紙そのままなので、カバーを付けたいと思います。

仕上がりがA5サイズの本をクルっと覆い、見返し側へ折り込むには、短辺が210mm、長辺が420mm以上は必要です。長辺420mmなのはA3サイズ(297×420mm)ですが、製本した本の厚さが10mm以上だと、A3ではカバーとして長さが足りなくなってしまいます。余裕を持ってB3サイズ(364×515mm)の用紙を使うと安心できると思います。

ちなみに “黒猫とスケッチブック” のカバーは、株式会社グラフィックさんへ印刷依頼したものです。先にも記しましたが、ページ印刷は家庭用のインクジェットプリンターです。

自分だけのART BOOKを!

 OKUAKI STUDIOは少しずつ改良を施していきながら、今後もこの製本方法でオリジナルのART BOOKを作っていく予定です。

 手製本に興味を持ってくださった方々、みなさんもぜひ自分だけのART BOOKを作ってみてください!全部手描きの一点ものも良し、お家のプリンターで写真やイラストをプリントしても良し。用紙の色や質を変えることで、仕上がりの印象もガラッと変わります。いろいろ楽しめる自己表現の一つとして、ぜひとも挑戦してみてください。